「桂馬、もしかして……」


―――キーンコンカンコーン……


やっと口を開いたとき、チャイムが鳴り響いた。続くはずだった言葉は、チャイムとその音と同時に教室に入ってきた担任によって、遮られてしまった。


「千夏、後で話そう」


担任をチラリと見た桂馬は、後でと言って、私に自分の席に行くように促した。


無言のままうんと頷いて、ゆっくりと自分の席へと戻る事にした。


落ち着け!落ち着け!ありえない速さで打ち続ける心臓に、必死に暗示した。










「よし、今日は欠席なし」


出欠を取った担任は遅刻も欠席もいないことに、満足気な顔をしている。


私はゆっくりと、後ろの席を振り向いた。主のいない机と椅子が1セット、寂しそうに窓際に備えられていた。





……彼の名前が呼ばれる事はなかった。