――ピンポーン


バタバタと制服に身を包んでいる最中に、階下からチャイムの鳴る音が聞こえた。あとは着替えるだけで終わりだったのに、今日も間に合わなかった。


「千夏ー、桂馬君が来たぞ」


ほら、やっぱり。予想通りにすぐに掛けられた声に、分かってるってと心の中でつっこんだ。


「はーい」


とりあえず、大きな声で返事をして、聞こえていることだけをアピールした。


机の上にあがっていた鞄を抱えて、部屋の扉へと向かったけど、一度そこで足を止める。


「……よっし、オッケー」


姿鏡に映る自分を見ながら、可笑しなところがないか入念にチェックする。今日は寝癖もないし、制服に皺もなくて、ばっちり。


待たせてしまっている桂馬のもとへと急ぐべく、バタバタと階段を駆け下りた。


階段の中段辺りで、今日もカッコいい桂馬が見えた。自然と緩んでしまう頬を引き締めながら、彼のもとへ駆け寄った。


そんな私にお父さんは呆れた顔をしている。


「高校生なんだから、もう少し落ち着きなさい。それに、毎回桂馬くんを待たせて……」


「俺は気にしていませんよ。最初から余裕を持たせてきているので」


ぐちぐちと説教でも始めそうだったお父さんを、まあまあと桂馬が宥めてくれた。


「気をつけますー。おまたせ桂馬、さっ行こう」


靴を履きながら、適当に謝りつつ、早くこの場から逃げようと桂馬を促した。


「はぁー、全くお前は……いってらっしゃい、気をつけて」


「「いってきます」」


諦めたのか、それ以上何かいう事をやめたお父さんは、苦笑しながら私たちを送り出してくれた。


そんなお父さんに私たち2人は笑顔で答えながら、学校に向かうために玄関を開けて外へと出た。


見上げた空は曇天で、スッキリしない天気だった。