『ゆずちゃんっ早くいこう!』
『待って○○くん!』
『よーしっ!あそこまで競争だーー!!』

ピピピピッ――…
ガシャッ

「なんか懐かしい夢を見たような…ってあれ?」
別に怖い夢でも見たわけじゃないのに何で涙なんか…
でも、心があったかくなるような優しい夢。
この夢をみたら胸がきゅうってなる。
それでまた泣きたくなるんだ。

土田ゆず(つちだゆず)15歳。昨日入学式が終わり、高校生活の記念すべき1日目。
ドキドキとわくわくで胸がいっぱい。
「ゆずちゃん。起きてる?もうそろそろ起きないと遅刻しちゃうわよ?」
コンコンとノックをしてドアの外から声をかけてきたのはおばあちゃん。
「え?うわぁ!もうこんな時間!急がないと…」
ピカピカの制服を着て鏡の前で1回転。
横で前髪を止めたら…
「よし。完璧。じゃあおばあちゃん。いってきますっ!」
「いってらっしゃい。気を付けてね。」

私が通う学校は歩いて20分くらい。
おばあちゃん、おじいちゃんと一緒に暮らしてるからなるべく近い高校を選んだ。
私が小学校6年生の時にお父さんとお母さんが交通事故にあい他界してしまい、私も事故にあったらしいんだけど、それ以降の記憶がなく、ちゃんとした記憶は中学校から。
だから、小さい時の自分を知らない。いわゆる記憶喪失?
でも私がこの高校を選んだのはまた別にある。
高校の裏にある小さな公園。そこに大きな柚の木がある。
その公園と木にとても惹かれてしまいこの高校を選んだ。

家を出てすぐの十字路。
「おはよう。ゆず。」
「おはよ。千華。」
彼女は浅野千華(あさのちか)。中学校からの仲で、サバサバしてて男子からの人気も高い。黒いストレートロングで背も高くて私と正反対。
「ねぇゆず。今日からあの人と同じクラスにいられるんだよ?」
あの人って…?
私が頭で上で?マークを作ると
「え。ゆず知らないの?めっちゃカッコいいのに?」
「知らないよ。名前すら出てこなしなぁ…」
「じゃあ教えてあげる!名前はね津田翔太(つだしょうた)って言うんだよ。」
「つだ…しょうた?」
朝みた夢と同じ。
胸が締め付けられるように苦しくなる。
「なに?やっぱり知ってる?」
「ううん。し、知ら…ない」

この時から何かが私の中で動き出そうとしたんだ。
止まっていた記憶が…