いつもの電車に乗り込んで、いつもの席に腰をかけた。
いつもなら早帰りのサラリーマンの叔父さんや、おばさん集団、私立に通ってるであろう小学生たちが乗っていて、なんの変化のない帰宅を迎える筈だったんだが。

ドアに背中を預けて立っている男の人が視界に入った。


「(わ…格好いい人…)」


本を片手に持っているその姿はとても絵になった。伏せられている目はとても色っぽい。
思わず凝視してしまった。しかしその彼は私の視線に気付かず本を読み続けている。
ぼーっと見ていると電車は駅に停車して、彼はそこで降りた。降りてしまった、と残念に思っていると。


「ってここ私も降りる駅!!!」


閉まりそうになった扉をするりと抜けた、と思ったら現実はそんな格好よくなくて。


「ったた…」


派手に転んだ。あまりの恥ずかしさに顔も上げられず、身体も起こせずにいた。


「大丈夫か?」


反射的に、その声に反応して顔を上げた先には、先ほどの本の彼が手を差し伸べて立っていたのだ。