「大丈夫か?」


その言葉に、声に、目に、手に、一瞬にして私は恋に落ちました。




あの人と私





何処かにいい人がいないかな、と考える高校3年の春。
進路は一応進学という話でまとまりつつあるが、何がしたいかなどは全く決めていない。そんな大事な年に色恋沙汰を求める辺り私の将来はなんの変哲のないものになるだろう。


「恋もいいけど、将来のことちゃんと考えなよ?紗希」


友人の青谷奈緒(あおたに なお)がテニスラケットを背中に背負いながら私にそう言った。


「はーい」
「本当に分かってんだか。じゃあ、部活行ってくるね」
「行ってらっしゃい」


奈緒が教室から出ていくと、私一人になってしまった。
少しの間教室内を見渡して、立ち上がった。帰ろう。ここにいても、いい人はきっと現れないだろうし。
鞄を手に取って、私も教室を出た。