主を失ったことで消滅した魔法陣があったそこ――

「女」

異形の獅子が、牙の隙間から問うてくる。火が燻るような、低い声だ。

「我を解放せしこと、褒めてやろう。望みのひとつでも叶えてやる。言うてみろ。我が力でも、望むか?」

「望み、だって……?」

よもや一ツ橋は、私が呪符を分解すると見越してキマイラを仕込み、コイツと契約でもさせる腹だったのか。

魔法は、魔術とは違う。公式ではなく、契約が要る。

現象を引き起こすための燃料、代償を用意し、その燃料を消費する機関――すなわち契約相手がいて初めて、魔法は使役でき、現象となる。

キマイラは、エキドナとテュポンの子だ。その血筋は由緒あり、どういう形であれ召喚できた事実は、魔術師として興味深いことだ。

しかし……まったくもってよりもよってキマイラとは……相手が……運命が……悪い。