素直に帰ったと思った私が、バカだった。

「ちっくしょう……あの狐目野郎……!!」

悪口を叩いた私の眼前で、紙切れは線香花火のようにポトリ、と屋根に落ちた。

瞬間、まるで地に足が着くのを待っていたように、火の勢いが増す。

私の身長を越し、火は連なって炎となり、体積をも増大させる。

紅蓮の中に、ギョロリとした目玉が四つ、光った。

まったくもって、とっさの判断だった。

魔法陣の中は魔術師にとって絶対領域。

しかし私は、そこから大きく横へ飛び出していた。

その判断をしなければ、私は炎をまとった獣――獅子の頭に山羊の体と角、蛇の尾を持つキマイラ、その顕現時による熱波をもろに食らってしまうところだった。

無理に横跳びしたため少し屋根を転がったが、雨どいにかろうじて足をかけ、止まる。

顔をあげれば、屋根が化け物の顕現であっという間に乾いていた。

獣のたてがみから、熱が、生じている。