...聞かれて、ないよね?
...きっと、たった今、教室に戻って来たんだよね?
...お願い。
ーーー私達の名を呼んだナツキの声に、不自然さを感じたのは、
気のせいでありますように。
「...ナツキ、ミーティングもう終わったの?早かったね!」
「あ...おぉ!今日は予定表の確認とか、ちょっとしたことだけだったから!
そんで、体操服忘れたの思い出して、取りに来た」
「そうなんだ......ん?」
ナツキの大きな手の中に、キラリと光る物を見つけた。
いつも通り、いつも通り。
意識して、ナツキの手を指差して、元気な声を出す。
「ね、それなぁに?」
「あ...コレ?来月大会だからって、マネ達が作ってくれたんだ」
「へえ〜ミッちゃん達かぁ!すごい器用だね!」
青色のユニフォーム型のフェルトストラップに、『NATSUKI』と刺繍がしてある。
小さな金色の鈴がついていて、揺らすとチリンと可愛らしい音を奏でた。
「ちょっと見てもいい?」
言いながら、ナツキの手の中にあるストラップに手を伸ばす。
ナツキの手に私の指先が触れた瞬間、
バッ!
と、音がしそうなくらい勢い良く、ナツキが私の手を振り払った。
「...いや、もう帰る」
「...じゃ、じゃあよかったら校門まで一緒に...」
「ユウマと待ち合わせしてるから、先行くわ」
鈍感な私でもさすがに分かった。
避けられてる、と。
「...じゃあな」
ナツキは、こっちを見ずに軽く手を振って、教室を出て行った。
目も合わせてくれなかった。