ベッドに横になっても、その晩はなかなか寝付けなかった。



なっちゃんはああ言ってくれたけど、本当に大丈夫なんだろうか?
僕は別にどんな風に思われても構わない。
ただ、僕のせいで、小太郎が傷付くことだけが心配だった。



もしも、僕がこんな風にダメな人間じゃなかったら……
あのまんま、仕事に打ち込んでいたら、なっちゃん達はどうなっていただろう?
なっちゃんは、あの頃、小太郎を保育園に預けて働いてるって言ってた。
あのゴミ屋敷で、二人はあのまま外食やお弁当を食べて暮らしてたのかな。
それに比べたら、今の暮らしの方がやっぱりまだ良いようには思える。



どの家庭にもいろんな事情があって……
だから、なっちゃんの言う通り、何も気にしなくて良いのかもしれない。



だけど……
子供には他人の家の事情を思いやることなんて出来ない。
皆と少し違うということだけで、いじめの標的にされるらしい。



小太郎も来年は小学校に入学だ。
ゆっくりと考えている時間はない。



(バイトでも始めようか……)



考えるのは簡単だけど、本当に出来るかどうかはわからない。
そして、そのことがまた僕の気分を滅入らせた。



焦っちゃいけない……

でも、急がなきゃ……


相反する気持ちがせめぎ合う。



(あぁ、どうすりゃ良いんだろ……)



ふとそんな時、篠宮さんの顔が頭に浮かんだ。



相談したらきっと親身になって考えてくれるだろうな……
篠宮さんなら何て言うだろう?



そんなことを考えた時、篠宮さんのあの笑顔がえみがえった。
愛する子供に向けられたあの笑顔が……



篠宮さんには、家庭があるんだ。
僕なんかに入り込めるはずのない強い絆で結ばれた家庭が……



僕は、篠宮さんにとってただの花屋のお客。
そうでなくとも、僕みたいに弱いダメな男を相手にする人なんてどこにもいない……



(だめだな…また病んでる……)



僕は無理に瞳を閉じた。
それでも少しも眠くならなかったけど固く閉じた瞼を開くことはしなかった。
押し寄せる焦りと不安に唇を噛みしめ、真っ暗な闇の中でまんじりともせず、僕は次の日の夜明けを迎えた。