「篠宮さん、握り寿司って作ったことありますか?」

「いえ、ありません。」

「そっか~…
じゃあ、見様見真似でやってみるしかありませんね。」



小太郎が、卵の寿司を食べたいというから、それなら、他の寿司も作ってみようという話にはなったものの、僕も篠宮さんも寿司を握った経験はない。
いつもの僕なら、やっぱりちらし寿司だけにしておこうと思い直しそうなところだけど、今日はなぜだかそうはならなかった。
篠宮さんと、ああだこうだと話し合いながら作る料理は、いつもよりずっと楽しかった。



「堤さんは、本当に器用ですね。
まるで本職のお寿司屋さんが握ったみたいですよ。」

「そんなことないですよ。
見た目はともかく、ちょっと固く握り過ぎたような気がします。」

口では謙遜しつつも、内心ではけっこううまく握れたように思っていた。
ただ、それは見た目だけのことで、シャリの握り具合は本当に少し固いかなと思えた。
持ち上げた時にシャリがボロボロになったら見苦しいと思って、つい念入りに握ってしまったから。



「たまごも美味しく出来ましたね。
私、実は卵焼きが苦手なんです。
とてもこんな風には焼けません。
それに、味が本当にお寿司屋さんの卵焼きですね。
堤さんは、とてもお料理がお上手ですよね。」

「実は、さっき、ネットでこっそりレシピを探したんですよ。
だから、似たようなものが作れただけです。」

それは本当のことだった。
だいたいの予想は付いていたものの、砂糖をどのくらい入れれば、子供達の大好きなあの卵焼きが出来るのかわからなかったから、帰ってすぐに僕はそれをネットで調べたんだ。
卵焼きは、以前、死ぬほど練習したから、焼き方にはそれなりの自信があった。
でも、それをあらためて誉められると、やはり気分は良かった。