「堤さん、これはどうでしょう?」

「良いいくらですね。
それにしましょう。
汁ものはシンプルに味噌汁で良いですか?
それとも……」

「良いんじゃないでしょうか?
夏美さんはお味噌汁がお好きだって、先日おっしゃってましたし。」

「じゃあ、具はどうしましょうか?」



僕は、その晩の夕食に篠宮さんを誘ってみた。
この数日間、お世話になったお礼をこめて、夕飯に寿司でも食べに行きませんかと言ったら、それなら、家でちらし寿司でも作りましょうと、篠宮さんが言い出し、僕達は小太郎を連れていつものスーパーに向かった。



「パパ、僕、卵焼きのお寿司が良いな。」

「うん、卵焼きもいれるよ。
細く切った卵だけどな。」

「僕、卵焼きのお寿司が良い。」

「わかった、わかった。
じゃあ、それも作ろうな。」

僕と小太郎のやりとりを、篠宮さんは目を細めて見ていて……



その表情に、なんだか妙に気持ちが和んだ。



どんな旦那さんで、どんな家族構成なのかは知らないけれど、篠宮さんみたいなお母さんなら、家庭はいつも穏やかでいられそうな気がした。
そう思えば思うほど、さっきの篠宮さんの態度が気にかかる。
何か、悩み事でもあるんだろうか?
たとえば、篠宮さんが「母」と言ってるのは、旦那さんのお母さんのことで、嫁姑の折り合いが悪く、そのことを旦那さんにも相談出来ないとか…あるいは、いくら言っても、旦那さんが取り合ってくれないとか?
気にはなったけど、そんなことはとても聞けない。
聞いたところで、僕になにか出来るとも思えない。
愚痴を聞くくらいなら出来るかもしれないけれど、それなら僕よりもなっちゃんの方が良さそうだ。
なっちゃんは包容力のある人だから……
それに、こういう話は、篠宮さんも同性の方が話しやすいだろう。



「パパ、アイス買おうよ!」

「え?あぁ、そうだな。」

小太郎に引っ張られ、僕のくだらない想像は中断した。



(そうだ…生クリームとしぼり器も買っておこう…)



今夜はなっちゃんにも早めに帰って来てもらうことになっている。
久しぶりに、にぎやかな夕食になりそうだ。