■♀side

金曜日の5限目。
窓際に座る貴方が大好きだった。

通った鼻筋、長い睫毛。
貴方の良い所が隣から見える。

ここは特等席。

でもね?
私、貴方のやや後ろから見た横顔しか知らないの。

だって金曜日の貴方は、いつもグラウンドばかり見ていて……

隣の私の視線なんて気付きもしない。

グラウンドでは、他のクラスの子が体育の授業の真っ最中。

きっとその中に貴方の好きな人がいるのね。


【俺、髪の長い子が好き】

そう友達と話してたよね。
私の髪、もう胸まで伸びたのよ?

【色白の子っていいよね】

ねぇ、暑い夏でも私が薄いカーデガン羽織ってるワケを知ってる?

知らないはずよね。
貴方は彼女しか見てないから……

でもね、せめてコレだけは知ってて?

金曜日の5限目。
この選択授業でしか私は貴方の隣に座れないの。

知らなかったでしょ?



《ころん……》

ボーっとグラウンドを見ていた彼の机から白い塊が落ちたのが見えた。

消しゴムだ。
拾ってあげたほうが良いのかな?

ちらっと彼を見ると彼も私を見ていた。

初めて見た正面からの彼の顔。

『あ…… 俺、英語より数学のほうが得意なんだよね』

『え?』

話し掛けられちゃってる?
えと…… 話して良いの?

『わっ 私、英語が得意だけど数学は苦手なの』
『え?』

……私って馬鹿だ。
嘘でも「数学が得意」って言えば話が続いたのに。

『じゃあさ…… 英語教えてよ。 俺、数学なら教えるし』

彼はそう言ってニコッと笑う。
初めて見た笑顔の貴方。

今日は初めてがいっぱい。

来週も再来週も……
毎週、金曜に見せてくれたらいいな。


【END】