『ジュース買ってきて』

『テレビつけて』

『あれして』

『これして』

もうお前の【して】には飽きた。
昔はこんなにワガママじゃなかったのに。

女が可愛いのは最初の一年。
それを過ぎれば……

『結城、暑いんだけどアイス買ってきてよ』

『はいはい……』

はい。
女王様の出来上がり~。

『何食うの? チョコ? バニラ?』

『チョコ』

大体お前、いつから俺のこと呼び捨てで呼ぶようになった?

結城くん、結城くんって可愛かったのに。


『いらっしゃいませ!』

なーんて文句言うのも始めだけで、結局いつも近くのコンビニに走らされる。

『あれ? 結城じゃん!』

『あー……カズ』

アイスを選ぶ俺を呼ぶのは同じ学校の和志。
ここの店員さんでもある。

『結城がコンビニ来るってことは、今日は美那ちゃんが来てるって事か』

『今日「は」じゃないよ。 一昨日の夜からずっといる』

『あはは! そりゃ半分住んでると一緒だな!』

笑い事じゃないっての……

『あの…… 和志さん、私そろそろ時間なので』

俺と和志が話している所に、申し訳なさそうに女の子が近づいてくる。

『あー、舞子ちゃんごめん。 レジ代わるね!』

舞子ちゃんというのか。
きっと上がる時間がきてしまったんだな。

『 そんじゃあ結城もゆっくりアイス選んでけよ!』

和志もそう吐き捨てると、足早に去っていった。

『あの……せっかく話してたのにごめんなさい』

舞子ちゃんは俺に深々と頭を下げた。

『いや、大丈夫。 あいつとは学校でいつも会うから』

『そうでしたか……よかったぁ』

ふにゃぁと柔らかく笑う彼女の笑顔は、正直ドキリとした。

そうだよな。
女の子ってこんな風に可愛いもんだよな。



『ただいまぁ』

『遅いー! 暑くて死にそうだよ!』

「おかえり」も無しに美那は床に置かれたコンビニの袋に飛び付く。

餓えた動物か。
現実なんて、こんなもんさ……

『わぁ! ホントにアイス買ってきたんだぁ!』

お前、自分で「買ってこい」って言ったじゃん。

『えへへ~、結城は美那のワガママ全部きいてくれるんだねぇ? そうゆうトコ大好き』

それって結局、お前のワガママきけば誰でもいいって事?
大好きと言われる度にそう思った。

んだけれども?
美那の嬉しそうな顔を見てると、それでもいいかな?なんて思ってしまう。

そんな俺って根っからの下僕体質か?