今、勇気を出さなきゃ本当に薫を失うかもしれない。

そう思ったら自然と彼に手を伸ばしていた。

『 俺たち今、手を繋いでるね』

シーツの壁の向こうから薫の声がする。
いつもと違う、少し震えた弱い声。

『手繋げてるね……』

『うん… …』

『別れる必要なんてないよね?』

恐る恐るシーツを脱ぐと、目の前には弱々しい薫の笑顔。
目には涙が溜まっているようだった。

どれくらいぶりだろう。
こんなまともに薫を見たの。

それだけで、恐かったはずの薫の手が微かに暖かく感じた。


『本当に馬鹿な女だな……』

さっきまで触れていただけの薫の手が、私の手を握り直す。
まるで宝物を包むように。

『少しずつ進むから…… 一緒にいて?』

私達はお互い、半泣きになりながら笑った。

半年ぶりに……


今日は手で触れた。
明日は手を繋いで歩けるかも知れない。

一年後にはキスをする事だって……



薫は帰り道にある自販機で煙草を一つ買った。

あの日、香っていたカプリを……

『俺も少しずつリハビリするよ……』

笑顔でそう言うと、彼は煙草を一本くわえて歩きだした。

火はまだ着けないようだ。


毎日の努力が、昔の私たちを取り戻すかもしれない……
何となく、そんな気がした。


【END】