■ショコラ1

今でも忘れられない。
あの日の事。

『ユマちゃーん♪ 明後日は何の日だっ!』

机に足をかけ椅子を後ろに傾ける彼はクラスメートのナオ。

『…私には関係のない日でしょ?』

私はそんなナオを睨んだ。

『そう言うなや。 女なら何か作れ。』

そう…
明後日はバレンタイン。
そして一年前の今日、私はナオに告白された。

【友達としてじゃなく好きだ】
【ナオ…】
【OKならさ… 明後日のバレンタインにチョコくれんか…?】

私はナオが好きだった。
だから不格好ながらも手作りのチョコを用意した。

でも渡しに行った時…
ナオは玄関で他の女の子とキスしてたよね?

私、ショックでショックで…
泣きながら手作りのチョコをコンビニのゴミ箱に捨てたんだよ。

そしてあの日からナオと友達でいる事を決めた。

『しっかし男って不便だよなぁ…』

天井を見ながら呟くナオ。

『何で?』
『チョコ待ってるだけやん。 好きな子は他の奴にチョコあげてっかも知れん…』
『…』
『可哀相な俺は日付が変わるギリギリまで待っとんのやで? 不便やん?』
『チョーー馬鹿らしい。』

ナオなんて待ってなかったくせに。
他の子とあんな事してたくせに。

『さて、馬鹿ナオはほっといて帰ろ。』

鞄に教科書をつめて持ち上げる。
と、その時…

『ユマ。 これあげる!』

ナオがそう言って小さなハンドブックを投げた。

『何これ…』

表紙を見ると「手づくりチョコレート」と書いてあった。

『俺、ガトーショコラでよろしく♪』
『何でナオに…』
『年に1回のお祭りくらい楽しみなさい?』

そう言って笑うナオ。
その顔は反則だ。
私の1番好きなナオの表情…

『…ナオなら他の子に貰えるでしょ?』
『でもショコラとは限らんし。 ショコラじゃなきゃ食わんで俺…』

このワガママ男。
ガトーショコラか…
どうそ私には難しすぎて作れないし。

それにしても、いまいち掴めないナオの気持ち。
1年前のあの日からナオの方も私に友達として接している。

だから…
あの子と付き合っているかどうかも聞いたりできないんだ。