きっかけはスリコミだったかも知れない。
でも今は違う。

アズマの少し意地悪な所。
意外と子供っぽい所。
優しそうな笑顔。

そんな所を好きになった。

『運命の人じゃなくてもいい。 私はアズマが……好きなの……』

涙が止まらなくて手で顔を覆う。
その時、フワリと甘い香りがした。

『だから運命なんてない。って言っただろ?』

……この声……

『アズマ!!』

『汚ねぇ顔!』

『あ、アズマ〜……ッ‼︎』

久しぶりに見たアズマの顔が優しく笑ってたから、余計に涙が溢れてきた。

まさか、来てくれるなんて思ってもみなかった。

『俺は前世で舞に会った記憶なんてないし、元々運命なんて信じる方じゃない』

アズマは涙で濡れた私の頬を親指で拭うと、そう言った。

『それでも今、舞を可愛いと思うし興味あるよ』

アズマ……
私はアズマみたいに大人じゃないからやっぱ運命って信じちゃうんだ。

『私もアズマが好き!』

『私もって……俺がいつ好きって言ったよ……』

私達がこうなる事も運命なんだって思っちゃうんだ。

『舞……俺、忘れてた事がある』

『ん?』

『俺、芸能人だったわ』

『……あぁっ!!』

私達の会話を聞いていた全校女子達が黄色い悲鳴をあげたり、失神したり……

私達が逃げ出すのに、かなりの苦労をした事は言うまでもない。


『舞どーする?』

無事に学校の外に出れた時、アズマが私にそう言った。

『何が?』

『明日の新聞に載ってるかもよ? 俺達の事』

そ、それは嬉しいかもだけど。
アズマは迷惑だよね……

『アズマ、ファン減っちゃうかな……』

『いいよ。 歌だけ評価してくれるファンさえ残れば』

『そっか……』

『そんな事より』

アズマは優しく笑うと耳元で囁いた。

【舞こそ、俺から逃げられなくなっちゃうね】


【END】