記憶の中、大好きな彼が歌を歌いながら私に笑いかけてくれた。

好きだと言ってくれた。

もしかしたらあれは前世の記憶だったのかな?
もう一度、彼に会いたい……


『舞! この間、合コンで会ったヨシくん覚えてる?』

『ヨシくん?』

席に座り、窓の外を見ている私に友人が声を掛けてくる。

ヨシくん?
誰だっけ。

『あんた覚えてないでしょ。 ホント男に興味ないんだから』

『だってぇ~』

『はいはい。 どうせ運命の彼でしょ?』

まだ最後まで言ってないんだけどなぁ……
当たってるけど。

『でも彼の事、歌を歌う彼としかわからないんでしょ?』

『うーん…… 顔は何となく覚えてる』

『えっ!? カッコイイ?』

『切れ長の目に鼻筋が通った感じ』

『ぶはっ! それって舞の妄想じゃん!』

『ちっ、違うよ!!』

妄想なんかじゃない。
はっきりと覚えてるもの。

茶髪で少し長めのエリアシに、透き通るような綺麗な目。

ねぇ……
私はここにいるよ?

貴方は今、何処にいる……?




《ザー……》

帰り道。
いきなりの土砂降りに、私はバス停で足止めをくらってしまった。

『天気予報の馬鹿! 晴れだって言ったくせに!』

だから傘なんて持ってないんだよッ!
私は何かに八つ当たるように道に小石をいくつか投げた。

『痛ぅ……』

その一つが通り掛かった男の人に当たってしまう。

『ご、ごめんなさい!!』

勢いで頭を深く下げると、今まで傘で見えなかった彼の顔が見えた。

……運命の赤い糸……

そこには、彼がいた。