薫が彼氏と長続きしない理由。
そんなものは俺にだって解る。

『だからすぐに股を開くなっての』

これが大きな原因だ。

『ヤスの言葉って下品』

『下品とかじゃなくてお前だって辛いだろうが』

『でも……それが男の愛情なんでしょ?』

『はぁ?』

あまりに薫が真面目な顔を見せるから、間の抜けた声が出てしまった。

『馬鹿かお前は! お前のものさし間違ってるぞ』

『だってヤスだけだよ? 私に手出さない男は!』

泣きそうな薫の顔に、困惑を隠せない。

何だこれ。
何でこんな事になってんだ?

『あんなにくっついてたのに…… 私としたいなんて思わなかったんでしょ?』

そもそもフラれたのは俺のはず。

薫から告白して、一方的に薫から別れた。
なのに俺が責められるのか?

むしろ俺は振り回された側だ。

『私、ヤスに好かれてないんだよね……きっと』

『バ……ッ 好きに決まってんだろ!?』

俺は咄嗟にそう言うと、薫の肩を掴む。
折れそうに華奢な肩にドキリとした。

そんな俺に対し、薫は照れくさそうに上目使いで見る。

『それって現在進行形……なのかな?』

あ、甘い声出すなよ……
それ狡いだろ。

『だったら嬉しいんだけどな?』

本当にこの女は卑怯だ。
こうしてまた、俺を誘う。

『進行形……です』

俺が、そういう所に弱いって知ってるくせに。

『ヤス、大好き』

嬉しそうに口の端を上げて笑う。

『そんな顔するな。 薫からフッたくせに』
『えへへ~』

本当……
意味わかんねぇ女。

こんな女が好きな俺も意味不明だけどね。

『ヤス… デートしようか!』

『はぁ?』

『駄目?』

『駄目じゃないけど、ラブホは行かないよ』

『え~、したくないの?』

阿呆か。

『体だけじゃないって薫に教えたい』

他の男と一緒にされたくないしさ。

『 何か食いに行く? 奢るよ』

俺は薫の手を握り、笑顔を見せる。

『ヤスと手繋ぐの久しぶりで緊張する』

そう言って小さく笑う薫が、初めて恋をした中学生みたいで何だか可愛く思った。

そんな薫をもう少し見ていたいから……
気長によろしく。


【END】