夜の闇の中で白く映る桜を見ながら、朔が口を開く。

『凍也…… もうお別れだね』

『……え?』

お別れ?
だって俺達、同じ所に行くんだろ?

『朔……? 消えたりしないよな?』

『私は消えないよ』

『だったら何でお別れなんて!!』

朔がスッと人差し指を立てる。
真っ直ぐ俺に向かって……

『消えるのは凍也だよ』

『……俺?』

また別れるのか?
また……?

だったら何で朔は現れた?
どうして二度もお別れしなきゃならないッ……

『何なんだよッ! 何で俺の前に現れたんだよ。 また俺を悲しませるのか!? そんなん……意味わかんねー……』

だったら、会いたくなかった。
また朔を失った日からやり直すなんて……

『凍也にお別れをしたかったから』

『お別れなんて……』

『凍也がお葬式にもお墓参りも来てくれないから、自分からお別れを言いにきたの』

朔はそう言って透明で綺麗な涙を零す。

俺、朔を忘れたくなくて……
朔が死んだなんて思いたくなくて……

もしかして俺が朔を引き止めてた……?

『あ、凍也! 手を見て!』

朔にそう言われて自分の手を見ると、指先から段々と透けてきていた。

『何これ……』

『凍也の体が目を覚ますみたい。 良かった』

満面の笑みを見せる朔の顔が涙で滲みよく見えない。

良くないよ。
朔と一緒にいたいよッ!

『俺はッ 朔を忘れられない!!』

精一杯叫ぶと、喉から少し血の味がした。

『朔がいなきゃ駄目だよ!』

もう二度と声が出なくても構わない。
朔に気持ちが伝わるなら……

『凍也』

朔がゆっくり近づいて、俺を抱きしめた。
首すじにひんやりとした朔の唇が触れる。

『朔?』

『キスマーク』

こんな時に何やってんだよ。
ふざけるなよ!

『このキスマークが消えるまで凍也は私の恋人だよ?』

『……え?』

『消えたら…… お互い前に進もうね?』

朔が泣く……
今まで見た事もないくらい。

辛いのは朔も同じなんだ。

キスマークが消えるまで……
精一杯、朔を想うから。

もう泣かないで……?