いつも調子よく騙され、時だけが重なる。

そんな亮介といるのも何だか疲れたわ。

『亮介くんも、きっかけがあればやめると思うんだけどねぇ』

誰に相談したって答えはいつも同じだし。

きっかけ、きっかけってさぁ……

『そのきっかけってのが何なのか、わかんないのよ!』

『うーん…… 久美が妊娠しちゃったとか?』

んなアホな。

『そんなのお腹が大きくならなきゃバレるって』

『亮介くんが音楽やめたら流産とか何とか言い訳してさ』

『え~……』

いくら亮介にやめてほしいとはいえ、そんな嘘はつけないよ。

バチも当たるよ、きっと。


『ただいまー』

重い足どりで家に帰ると、亮介は気楽そうにリビングでテレビを見ていた。

『おかえりくらい言ってよ』

『あー、おかえり。 つか大事な話あるんだけど』

『ん?』

『実は、先輩達のバンド…… 本格的にやるらしくて今度CD出すんだ』

『は? 亮介は?』

『それが俺も付き合わされちゃうみたいで……』

亮介に嘘つけないなんて……
前言撤回!!

『私、亮介がそんなだから黙ってたけど! 生理が大分遅れてんだからね!!』

『……えぇ!!!?』

私の突然の告白に亮介は驚いて後ずさる。

もちろん嘘だけど?
生理きてるけど……ッ

『亮介がちゃんとしなきゃ赤ちゃんも産めないよ!』

亮介のための嘘でもあるんだ!!


しばらく続く沈黙……

亮介は何か言いたそうな顔をしていたけど、あえて私からは何も聞かない。

そんなんで、ようやく数分が経ち。
先に口を開いたのは亮介の方だった。

『わかった…… 次のライブで終わりにする』

『本当?』

『うん。 約束する』

『ぜ、絶対だからね!』

あまりに嬉しくて亮介の腕に抱き着いてしまった。
それと同時、亮介の笑顔が視界に入る。

『俺、子供めっちゃ好きなんだ。 名前何にしよう!』

『あ……』

ズキン……と少し胸が痛んだ。
喉に何かを詰まらせたように息がしずらい。

亮介のための嘘。
それ本当に……?