犯人桂田は、声を荒げる。
「俺は本気だぞ!!
ヤルって言ったら、ヤルからな!!」
桂田の手に力が籠もる。
首に当たるナイフの鋭利な感触に、うららの恐怖が頂点に達していた。
その時小泉は、屋上からロープを伝い、
開いた窓の中に体を滑り込ませたところであった。
窓は床から4メートル程の高所にある。
その窓枠に右手一本でぶら下がる。
飛び下りる準備をしながら、小泉の左手は、宙で数字をカウントする。
長い指が無言で3秒を数えた。
ゼロカウントと同時に、小泉は高さ4メートルから飛び下りる。
鮮やかに着地を決め、すぐさま走り出す。
犯人がそれに気付く。
うららごと振り返った時には、小泉は犯人の目の前まで来ていた。
桂田が慌ててナイフを小泉に向ける。
その手は、小泉に蹴り上げられた。
ナイフが手から飛ばされ、くるくると回転して壁に突き刺さった。