及川は、嫌そうに言う。
「犯人は30代前後の男一名。
最上階のレストランに、女性買物客5人を人質に立てこもり中。
既に一課と機動隊が包囲し、逃げ場はありません。
後は人質を解放し、投降するよう説得するだけです。
幾らか時間は掛かるでしょうが、今回はSMRがしゃしゃり出る必要はありません。
帰って下さい」
及川は説明を終えると、鼻で笑った。
SMRは冤罪防止対策室。
この事件は犯人が明らかで、SMRは不要だと言いたいのだ。
小泉は聞くだけ聞いて、何も答えずエスカレーターを駆け上がる。
焦っていた。
及川が言った“人質女性5人”という言葉…
その中にうららが含まれると、確信めいた予感を抱いていた。
焦る心に、助けを呼ぶうららの声が聴こえていた。