うららから、思考力が奪われて行く。
酸欠で頭に霞みがかかり、荒れ狂う感情が静まって行く。
一分ほど経ち、小泉がやっと唇を離した。
濡れた唇が、艶やかに光っていた。
うららの肺が酸素を求めて、大きく膨らんだ。
まだ頭の中はぼんやりと霞んでいて、
潤んだ瞳で、ただ小泉を見つめていた。
小泉の強い言葉が、うららを諭す。
「お前は、桜庭うららだ。
アバタリであったのは過去のこと。
お前はうららとなり、今はもうアバタリなど、どこにも存在しない。
ぶれるな。自分をしっかり持て。
おにぎり屋のばあさんが、お前を心配して待っている。
おにぎり屋に帰るぞ」
小泉の言葉は、うららの中に浸透した。
「ばあちゃん… 帰りたい…」
涙を一粒ポロリと零し、
うららが、そう呟いた。