それなのに。

幸せムードに一直線かと思われた恋の始まりだったが。

少女マンガのような

『夢一杯でキラキラした世界』

というのは、長くは続かないらしい。

いや、もちろん彼女は可愛い。

まだ交際も続いている。

彼女を泣かせてしまっただの

怒らせただの

喧嘩になっただの

そういうような事もない。

そう、何も無い。

良いこと悪いことに限らず、とにかく何も無い。

カップルらしい事と言うのも特にはしていない。

勿論最初のうちは、甘酸っぱくもどかしいようなやり取りがあった。

しかし、新鮮な気持ちというのは賞味期限が早すぎる。

飽きた、という訳じゃないが。

なんというか、慣れだろうか。

ちゃんと喋ったのはあの後にお互い自己紹介なんかをしながら一緒に帰ったとき位だ。

彼女の名前は籐条 華。

偶然にも俺がいる隣のクラスの奴らしい。

と、いうかそれを知らなかったのは俺の方だけだったらしい。

彼女が言うには

「…あのね、フデバコ落としちゃったとき、高本くん見つけて。

大変、って頭真っ白になっちゃって…。

でも、怒らなかったし、拾ってくれたし…だから、その

実はいい人なんだなって、す…好き、になっちゃって…う、ん。」

悪いやつだった覚えは無いが。

筆箱落とすだけで怒鳴るって、どんな奴だと思われているんだろうか。

たどたどしく、どもりながらも恥ずかしい台詞を言ってくれたのに赤面してしまったのを覚えている。

だいぶ…可愛かった。
しかしそんな会話をしたのもあの日きりだ。

それからは、彼女を見るのも教室の外からとか

廊下ですれちがうとか。

それくらいしか本当に無い。

会いに行けばすむ話、ではあるんだが、気恥ずかしくて中々実行に移せない。

相手もそうなのかは知らないが、とにかく付き合ってはいても

距離が縮まった気が全然しない。