数十年前


「ハァ、ハァ・・・がんばれ・・・何とかしてやるからな・・・。」


大雨の中、弦九朗は両肩に何かを抱えるかのように山道を必死に走っていた。


「ここなら、大丈夫だ。」


古くて、今にも潰れてしまいそうな祠の中。弦九朗はそこに両肩の何かを静かに下ろした。
何か・・・それは、小さな子供。
ボロボロの着物を身に纏った子供・・・弦九朗が見つけた時には、衰弱が激しく虫の息の状態だった。


「この近くだったよな・・・」


弦九朗は、胸元から小さな紙を出す。そこには、ある情報が書かれていた。


「おっさん・・・どこだ・・・ここ・・・」


黒髪でクリクリの癖毛の子供が、必死で弦九朗に尋ね始める。


「雨が凌げそうなボロ家ってとこだな。待ってろ、この近くに俺達のことを助けてくれる奴がいるらしい。」
「助けてくれる・・・奴・・・」
「あぁ。だから、安心して寝とけ。」


その言葉に甘えるかのように、子供は再び眠り始めた。

「ごめんな・・・ごめんな・・・」

子供達を見つめながら、泣き始めた弦九朗。彼の中での苦渋の決断をするときが迫っていた。

当時の弦九朗には生活能力がなく、ただ宛もないまま、様々な世界を渡り歩いていた。元は人間であったが、生まれてすぐに両親に捨てられ、様々な人間の下を渡り歩くが、疎まれ、蔑まされ、恨みを持ったまま死に、牛鬼として人を襲って生活していた身。そんな中、この子供達と出会ったのである。

「俺には・・・お前達を育てる資格はない。俺なんかといるより・・・・」

そういうと、弦九朗は詳細の書かれた紙に何か呪文を唱え始めた。すると紙は白い鳥になり飛び始める。