「まだ実感できねぇわ・・・」
そう呟いた弦九朗は、腰に吊るした袋から煙草を取り出して火をつける。
「旦那・・・俺、まだ実感できないっすわ・・・死んだなんて・・・」
煙草の灰が時間の早さを物語っていく。
力が抜けたようにしゃがみこむ弦九朗。そんな彼に冷たい雨が降り注いでいく・・・
「正嗣の旦那・・・すいません・・・嬢ちゃんに・・・」
火のついた煙草を握りつぶし、涙を流しながら頭を下げた弦九朗の上に何かがさっと現れると雨を遮る。
「知り合いなのかよ・・・。」
そこにいたのは、風燕だった。彼の左手には使われていないビニール傘が握られている。
風燕は、弦九朗とは目を合わせず、さっと傘を差し出す。
「早く受け取れよ、風邪引いたら元も子もねぇからさ・・・」
「ありがとな・・・」
弦九朗は、静かにその傘を受け取ると立ち上がって風燕と共に家に帰っていく。その時、弦九朗は、風燕にばれない様に後ろを向いて深々と頭を下げた。
“こいつらを育ててくれてありがとうございました。”
と心の中でそういいながら・・・