椿と禮漸は、まだ応接室の外でまだ必死に思い出そうとしていた。そんな椿の足にふわっとした感覚が纏わりついてくる。明らかな違和感。椿は視線を右足のほうまで落としてみると、そこにいたのはクリーム色の毛並みをした小さな犬。うるっとした瞳で椿を見つめていた。
「あれ、こんなところにわんちゃん・・・」
その犬を持ち上げた瞬間、椿の脳裏に幼い頃の記憶がよみがえる・・・。

“ワンワン、遊ぼう!”

「・・・ワン・・・ワン・・・?」
「椿ちゃん!やっと会えた(泣)」

いきなり話し始めたその犬。ぱっと椿の胸元から離れると、人の姿に変化した。ウェーブのかかった黒髪、細い身体、紫色の瞳。光は屈託のない笑顔で椿を抱きしめる。

「ちょ、ちょっと!!」
「僕ね、ずっと椿ちゃんを探してたんだよ!!怪我が治って家に帰ったけど、椿ちゃんに会いたくてお家行ったら椿ちゃんいなくて・・・がんばって人間の姿に成れるように特訓したのに・・・」

あまりに突然の出来事に、そこにいた禮漸も思わず動きを止めてしまう。そんな彼らのすぐ近くから聞き覚えのある声が・・・

「君はずっと、がんばってたもんね。」

そういいながら、光の頭をぽんぽんやさしく叩く。その手の主は祇儀だった。光の姿がないことに気がついた祇儀は、混乱を避けるため、誰にもばれないように部屋から出てきたのである。