数時間後

「お前ら、忘れ物してねぇべな。」

緑涼はそう言いながら、静かに玄関のドアに鍵を閉めた。
しばらく、家を開ける事に決めたのである。いつものキャンピングカーに乗り込む春河家。
椿は、カーテンの隙間から小さくなっていく家の風景を寂しそうな眼で見つめていた。
車3台に分かれて移動。

1号車
運転:隼丸
祇儀、清澄、弦龍、虎黎

2号車
運転:遊佐(というより広重)
弦九朗、砂靭、弥勒、凛香、空我

3号車
運転:深波
春河家全員


こんな感じである。車はどんどん港へと向かっていく。この街の港は、椿が幼稚園ぐらいのときに、路線が廃止され閉鎖された。深波によると、閉鎖後、妖怪達の旅行の玄関口となっていた。
「あの埠頭に行って何すんだべ?」
油揚げをかじりながらそう話す火燐に「船乗る以外に何があるっていうんだ?」とトマトにかぶりつきながら答えた風燕。キッチンでおにぎりを握る蓮流と、横でサラダを作る緑涼。そして、窓際でちょこんと座ったまま動かない椿・・・。禮漸は、そんな椿の横に座ると頭にぽんと手をやり自分に引き寄せる。

「大丈夫だ、すぐに帰れるから。」

椿はその言葉を聴いてうっすら涙を浮かべている。それを見た、禮漸は「ちょっとまってろ。」というと、胸元から小さな包みを取り出した。
椿にその包みを渡すと「おいしいから。」という言葉を残して禮漸はその場を離れたのだった。

車は、港に到着。そのまま止まることなく、フェリー乗り場へと進んでいく。

「うわ~っ!!」
「すげ~~っ!!」
「なんだべ、あれ!!」

そこには、大きな海賊船が止まっていた。キャンピングカーの中は、みんなの驚きの声が響き渡る。そんなことの気にも留めず、車はその船の中へと入っていくのだった。