「おじいちゃん、元気にしてた?」
母が呟く。
その目線の先では、じいちゃんが笑里のそばで微笑んでいた。
「何のために来たんだよ。自分で聞けって」
片膝をついてテーブルの隅のリモコンに手を伸ばすと、母が頬杖をついた。
「エミに気遣わせるなよ」
「それが出来たら、こんなに時間はかかってないのよね」
独り言のトーンで話す母を見て、俺は聞こえよがしにひとつ溜め息をついた。
*
父が家を出ていって一年半が経った頃、未登録の番号から電話が掛かってきた。
大雪警報の出ていたある夜の事だった、父の死を告げられたのは。
急性アルコール中毒だった。
行き掛けの居酒屋で店主の制止を振り払って、酒に飲まれたのだ。
ひっくり返った男の握る携帯に残されていたのが、母の携帯番号だった。
店主からの電話を受け取った母は、毅然としていた。
病院に運ばれた父の最期を看取るため、母は真冬の頬刺す風の中、外へ出ていったのだ。