恐る恐る一歩、二歩と彼に近付いて行く。
そこでようやく顔を上げたと思ったら、視線の行く先は只々虚ろだった。
「俺にはしばらく近付かない方が、いい」
呼吸が止まるようだった。
焦点が合わなかった横顔が呟けば、途端に榛名の表情は歪んでゆく。
彼が歯を食い縛り、骨張った右手で顔を覆い出す。
さらさらと旋毛から降りてくる一本一本では隠しきれない、涙の滴が落ちた。
肩を震わせて、声を押し殺して、泣いていた。
三浦が、泣いていた。
信じられない目の前の光景に立ち尽くしていると、酷く小さな声が返ってきた。
「最低だよ、俺は、」
情けないほど泣きじゃくりながら、三浦は懸命に言葉を吐き出した。
「上野の言ったことが信じられなくて、自分が許せなくて、怒りに任せて、俺を殴らせようとした、暴力で解決しようとしたんだ、これじゃあ、これじゃまるで、」
”あいつと同じじゃねえかーー”
段々と強まる語気の果てに吐き捨てた三浦の言葉。
”あいつ”ーー指し示す相手が思考回路で繋がった瞬間。
榛名は三浦の元へと駆け寄った。