いつか来たときのように、さくら模様の湯呑みを目の前に出された。
「ありがとうございます」
佐伯の薬指に光る指輪に気をとられながら、頭を下げた。
右手の薬指といえどもおそらくファッションではないのだろう。
こんなに素敵なひとを放っておく男性など居るはずがないーー妄想を広げていると頭上で佐伯が呟いた。
「そろそろ、来るわよ」
彼女はしなやかな指を擦りながら、時計を見つめていた。
榛名は逸る鼓動を押し返すような気持ちで、扉の方を振り返る。
謀ったようなタイミングで、擦り硝子に人影が映った。
その引き戸が開かれて、現れた本人と目が合う。
どうして、と言いたげな顔をして、それからすぐに”彼”は佐伯を睨んだ。
「佐伯さん、」
嵌められたとでも言いたげな口調に、榛名は唇を噛んだ。
すかさず佐伯が口をはさむ。
「文句を言いたげな顔ね。でも貴方は職員会議にのぼるような事を起こした。北村さんはそれに巻き込まれた被害者なのよ」
「ーーそれは、俺だって、」
「言い訳はよして謝りなさい。往生際が悪いわね」
そうして佐伯は小脇に幾つかのファイルを抱えると、颯爽と”彼”に近づいた。