生温い風が頬を掠める。



見えない誰かに嫉妬してしまうなんてそんなことがあってたまるか、けれども身体が動かなかったのだ。



ゆっくりと融かされていく心。


心の奥で淡く色づいて、それはすぐに落ちてゆく。


ひとひら、また一片と。



(好きだ、なんて)


知らないふりはもう出来ない、そんな気持ちをやっとの思いで飲み込むと、胸がちりりと痛んだ。



「おねえちゃん、はやく!」


小春の快活な声が、坂道にこだまする。


あっという間に遠くなった二人の影を追いかける手前、榛名は空気を吸い込んだ。



ーーもうすぐ、春が去ってゆく。






「今日はありがとな」


その言葉を合図に、榛名は持っていた買い物袋を彼に預けた。


その重みで肩が下がったのを、小さく笑う。


「楽しかった、すごく」