記憶の中の三浦は淡々としていて、いつもどこか余裕を持った表情をしていた。時には物憂げな顔をすることもあった。


だから、年相応の笑顔を見た瞬間、榛名の頬が緩んだのだ。


「いきなりどうして今日は走ったんだろうね」


今まで怪我とかしてたのかな、と彩花が隣で首を傾げる。


「どうなんだろうね、分からないけど、」


(”古傷”と向き合おうとしてる、そうでしょう?)


榛名は小さく微笑んだ。


それを見留めた彩花がにやにやとしている。


綺麗どころで評判の彩花が、意地の悪そうな顔をするのは少なくとも、榛名と瞬の前でだけだろう。


嫌な予感を振り払うように、榛名はのけ反った。


「な、何よ」


「いいところ見せたかったのかもね、榛名に」


「はあ?」


「ついさっきのこと。忘れたとは言わせないよ?」


ほらほら、と彩花は榛名の肩をつついて促した。


それに釣られて、玄関での出来事を思い出す。


いや、思い出すも何も、はじめからその言葉が頭の中をぐるぐると巡っているのだ。



「じゃあ、集合」


千原の、よく通る声がして、散り散りになっていた点が集まって線になる。


榛名は行列の前から三列目で、後頭部に神経を集中させていた。


いやでも期待してしまうのだ。


『上手くいったら、その時は付き合ってよ』


あの男は、言葉の真意を掴みかけたところで不意に離れてしまう、そういう奴だ。


そう自分に言い聞かせながらも、俯いた耳は赤く染まっていたのだった。