しばらくお目にかからなかった青空を背に、三浦はスタートの姿勢を取っていた。
常時見学者だった彼が間近にいることで、両クラスの生徒が背後でざわついた。
「三浦、お前どういうつもり」
奇しくも三浦の隣で同じように身体を屈めるのは、瞬だった。
「どうもしない。ただ気が向いたんだよ」
スターティングブロックの位置を直す横顔を一瞥した瞬は眉を潜める。
「変なやつ。そもそもどうして陸上部なんか入ったんだよ」
「俺の走りが好きだっていう奴がいたから」
「なんだ、女かよ」
柄にもなく舌打ちをした友人に三浦は反応したが、すぐに目の前の障害物を見据えた。
「ずっと昔の話だよ、そんなの。でも、」
そこで区切られた言葉に、瞬の視線はその口元の先を辿った。
そうしてひどく狼狽えたのだ。
「馬鹿みたいに信じてたんだよ。俺の走りはいつか、また、誰かを喜ばせることができるんだって」
『でも、足が動かなかった』そう呟いた瞳が、余りにも哀しい光を宿していて。
それより、何よりも、三浦の身体は微かに震えていた。
「三浦、お前」
”何をそんなに怖がってんだよ?”
笛の音に掻き消された言葉も空しく、その背中はあっという間に駆け出した。
体勢を崩した瞬は、少し遅れてその背中を追い掛けた。