横たわった榛名の白い右腕が、夕焼けから両の目を隠す。


「先生の大事なもの、わたしが奪ったのに」



血気のない頬に一筋、涙がこぼれた。


「何もかも投げ出せないの。先生のために、何もしてあげられなかったのに」



櫻子は泣きじゃくる榛名の左手を握った。



櫻子の背中が橙に染まる。


申し訳程度の暖かさを背に受けながら、櫻子は思った。



今日、雨が降らなくてよかった、と。



もし雨が降ったら、


あの日のように窓を打つ雨が降っていたら、


この子は本当にどうにかなっていたかもしれない、と。



偶然のいたずらに、櫻子はただ感謝するしかなかったのだ。