「このところずっと、そうだったのね」
「どうして、わかるの」
「わかるわよ。毎日青い顔して降りてくるもの。朝は弱くないはずなのに」
榛名は息も通らぬほどの細々とした声だった。
「5月に入る頃に、先生が夢に出てきたの」
「うん」
「毎年そうなのよ。今日の日だけじゃないの。ずっと、そうなの」
「うん」
櫻子は知っていたわよ、とは言えなかった。
朝に限らず、ふと娘の目の光が消えてしまう瞬間がある。
それが春の期間に見られるということに気づいた時、全てを悟るのに時間はかからなかった。
大きな異変が訪れるのは、決まって5月のある日。毎年それは変わらず、榛名の心のバランスが極端に崩れてしまう。
ある年は、食事が全く喉を通らなかった。
そしてある年はーー思い出すだけでも、胸が張り裂けそうだった。