「来週のことなんだけど」
「土曜日だろ。朝一の電車で行くよ」
「じいちゃんは、来ないかしらね」
話題の相手をちらりと見遣る。縁側の軒先で、自慢の菜園を見つめる背中が丸かった。
「多分行かないだろ。向かいの佐藤さんに俺が留守にすることは話しておくよ。万が一があったら怖いから」
「そうしてくれると助かる、あ、」
妙な声とともに電話口の向こうが騒がしくなる。次の瞬間息を吸う音が鮮明に聞こえたので、咄嗟に耳を離した。
「瑛人!」
耳をつんざくような明るい声は、13歳になる妹の笑里(えみり)だった。
「声でかいって、何度言ったらわかるんだよ」
「ね、今度帰ったらお小遣いちょうだいね」
「馬鹿言うなよ。俺だってまだ学生だぞ」
「ええ?使えない兄貴」
昔はあんなに可愛かったのに、今は身長ばかりか態度も大きくなっている。
思春期が来れば矛先は間違いなく自分だろう。想像するだけでも頭が痛くなった。
「なあ、エミ。母さんのことあんまり困らせるなよ」
「何よ、分かってるわよそんなこと」
「部活。始まって忙しいだろうけどさ。家のこと、ちゃんと分担して仲良くな」
「うん」
減らず口を叩いても、大事なところはきちんと頷く。そういう素直さはそのままであってほしいと願った。