俗にいう5月の黄金週間は、初めて自分の分身が欲しいと思った瞬間があった。
飲食店は終日家族連れでごった返していた。
それゆえに客が飲み物をこぼしたり、皿を落としてしまうハプニングの割合も高くなる。
身を粉にするような思いでアルバイトに勤しんだ日々から、2週間ぶりに訪れた週末。
自室の窓から心地よい風が吹き抜けている。ここは海が近い。
降り注ぐ木漏れ日に目を細め、持て余した身を起こす。時刻は正午を過ぎていた。
昼食を摂ったら辺りをぶらついてこようか。そう思った矢先、床下の足音が騒がしくなった。
自室を出て階下を覗くと、ちょうど居間を出てきたじいちゃんと目が合う。
「瑛人、電話」
誰から、と問う暇もなく、くるりと背を向けて戻っていく。
日向に当たっていたのだろう、至福の一時を邪魔されて心なしか不機嫌そうにしていた。
こういう態度をさせる電話口の相手はすぐに察しがつく。
じいちゃんも多分、内心は照れくさかったのだろうから。
「ああ、瑛人?」
受話器を取ると、じいちゃんとそっくりのハスキーな声が響いた。