「この前のお返しに、ってことで貰ってもいい?」
鞄を右肩に下げて榛名に目もやらず、プルタブに手をかける。
つい今まで頭を悩ませていた彼の行動に、榛名は唖然としていた。
反応の薄い榛名にようやく気付いた三浦は、ふと笑って制服のポケットに片手を入れた。
「いや、うそうそ。北村って意外とけちなんだな」
ポケットの中から取り出した硬貨を差し出す手を、榛名は叩いてやりたい気持ちになった。
「お構い無く。どうぞ頂いてください」
「なんだよ、冗談だって。ほら」
「結構です、以前ご馳走していただいたので」
「おい、眉間に皺寄ってるぞ」
「余計なお世話です!」
むきになった榛名は、差し出された手を憎らしい気持ちで見つめた。
骨ばった指の爪は短く切り揃えられているが、親指にちいさな傷がある。
よく見ると、ささくれを無理やり剥いたような跡が出来ていた。