手のひらの中にあった硬貨の枚数を確認する。そうしてすぐに、自動販売機の受入口に手を伸ばした。
羅列したドリンクに視線を巡らせると、見覚えのある炭酸飲料に目が留まる。
ーー千原は、結局は何も教えてくれなかった。
ほんの数分前、言葉を濁した千原は困惑していた。
やはり簡単には他人に話すことの出来ない事情があるのだろう。
榛名はディスプレイに伸ばしていた指先を降ろした。
以前、このロビーで三浦と会話した時の眼差しを思い出す。
自分と似たわだかまりがあるのを感じ取った、だからあの『提案』に頷いた。
それなのに自分は、過去を振り切るような一歩を踏み出せているかと言われたら、きっと黙りこんでしまうだろう。
同じように、知り合ったばかりの三浦のことを理解したいかと訊かれたら、それも首を傾げてしまうだろう。
すっきりとしない榛名はため息を一つこぼした。
そうして硬貨を戻そうとレバーに手をかけた、その時だった。
「この時期に、レモネードって売ってないのな」
後ろから、予期していなかった声がした。
「仕方ないから、これでいいや」
手がすっと伸びてきて、機械音が鳴る。内部でけたたましい音をさせて缶が転がる。
取り出したのは、あの柑橘の炭酸飲料。
振り返った先には、三浦が居た。