「糸が余ってるの。榛名もどう?」


彩花の誘いに、榛名は首を振った。


「お裁縫とかだめだもの。無理だよ」


あげる相手もいないし、付け足したぼやきに彩花は笑った。


「簡単よ。ほら、小春ちゃんにプレゼントするとかはどう?」


「ミサンガの意義を知ったら、自力で切りたがるよ、あの子」


何だかんだ言ってもちゃっかりしている妹を思い浮かべると、何となく糸に手が伸びてしまう。


青、緑、白の三色を、彩花に指導してもらいながらゆっくりと編み込んでゆく。



ようやく手順を覚えた、その日何度めかの休み時間。彩花はぽつりと呟いた。


「榛名の手って、綺麗だよね」


思いがけない褒め言葉に、榛名は間の抜けた声を出してしまった。


「手入れ、してるの?」


「乾燥しやすい時期にハンドクリーム塗るくらいよ。ささくれに成り易いからこまめにやってるけどそれだけ」



北風が吹き始めた頃、所構わずに遊んで帰った榛名の荒れた指を見て、櫻子は眉を下げたものだった。そうしてよく言っていた言葉がある。


『一生懸命遊ぶのも大事よ。でもささくれが出来るのは良くないね。よく食べてしっかり眠って、自分の身体を労らないとね』


「ささくれができるのは親不孝者の証拠よ、って」


母方の祖母がしつけに厳しかったように、櫻子には、女性であることの自覚を幼い頃から強く意識付けられてきた。


榛名の家庭は共働きで、櫻子は世間的には男性が優勢の職業に就いていた。


時折、愚痴を言うけれども、やはり母はたくましい。女であることに誇りをもって仕事をしている、櫻子らしい教えだった。