いつだって雨が降っている。それなのに、向こう岸とを繋ぐ河の流れは穏やかなのだ。その光景を榛名は何度も見ている。


仄暗い(ほのぐらい)視界の中で向こう岸に立つ影がゆっくりと大きくなってくる。



橋などないのに岸を渡ってきた影は、見上げても際限がなく、榛名の身体を包み込む。榛名は肩を震わせながら呟いた。


「ごめんなさい――」


分かっていた。何度謝ったとして現実は変わらないのだ。それが心の奥底からの言葉だったとしても。


影は容赦なく、周りの視界や榛名の体温までも奪っていく。


(俺を恨んでいたのか――)


「そんなこと――ちっとも思ってない」


(俺が何をしたって言うんだ――)


「先生――お願い、話を聞いて。私は本当に先生の事を思って――」


(君のせいで俺は――)