三浦の口調はあっさりしていた。


けれども、缶に口をつけた横顔からは表情が読み取れない。


その淡々とした振舞いに怖じ気づいて、榛名は細々と呟いた。


「三浦くんのこと怒らせてばかりでしょう、わたし。知り合ったばかりなのに」


『嫌な思いばかりさせてるでしょう、』俯いてしまった最後の一言は弱々しく響いた。


「知り合ったばかり、か」


三浦はもう一口、缶を傾ける。


「話しかけたのは俺からだし。噛み合わない人間には三度も近づかないよ、」


フォローしてくれているのだろうか、しかし、不快感を持っていることに対しては否定をしない。


榛名は打ちのめされそうになっていた。


「泣いてたな、保健室で」


「へ、」


思わず顔を上げると、 三浦は真っ直ぐに中庭の方を見つめていた。


雨粒が、先程より強く地面を叩いている。



「俺が走れなくなった時もあんな風に泣いた。情けないけどな」


”走れなくなった”。そのワードはもう、聞き流すことにした。触れてはいけない一線がある。


「ただ時間が勝手に流れていくだけで、ぼうっとしてたら現実は何も変わんないんだよな」


三浦は目線だけを榛名に向けた。薄い唇がゆっくりと開く。


「そういう、うまく飲み込めない引っ掛かりがあんたにもあるんだろ、ずっと」