それから黙々と単調な雑用を続けたのち、最後に一言、三浦は呟いた。


「悪かったな」


へ、と間抜けな声を出す。榛名はたまらず瞬きをした。


「それから、」


言葉を区切って、そこから口が開きそうで開かない。


榛名がじっと飲み込まれた言葉の行方を待っていると、それに気付いた三浦の視線が揺らいだ。


「放課後、少し顔貸して。玄関で」


頷く暇もなく言葉少なに、彼は背を翻した。








春の天気は、変わりやすい。


帰りのホームルーム。榛名が見つめる窓の外は、いつの間にか重く雲が垂れこめていた。


挨拶が終わると、賑やかな廊下に出て一つため息をつく。


鞄の中を探っていた指にかつん、と、傘の骨が当たる。


そのまま折りたたまれた傘を右手に、階段を一段ずつ足取りは重く、重く。


次の一段が無くなったところで、榛名は俯いていた顔を上げた。


掃除や、部活へ向かう足はたくさん居て、いつもと変わらない景色だ。


だから、榛名もいつもと変わらず、何も躊躇うことなく玄関へと向かうことにした。


けれども。


「顔貸して、って言ったはずだけどな」


それは、やはりいつもと違う一コマだった。


振り返った先には、仏頂面の三浦が居た。