それから黙々と単調な雑用を続けたのち、最後に一言、三浦は呟いた。
「悪かったな」
へ、と間抜けな声を出す。榛名はたまらず瞬きをした。
「それから、」
言葉を区切って、そこから口が開きそうで開かない。
榛名がじっと飲み込まれた言葉の行方を待っていると、それに気付いた三浦の視線が揺らいだ。
「放課後、少し顔貸して。玄関で」
頷く暇もなく言葉少なに、彼は背を翻した。
*
春の天気は、変わりやすい。
帰りのホームルーム。榛名が見つめる窓の外は、いつの間にか重く雲が垂れこめていた。
挨拶が終わると、賑やかな廊下に出て一つため息をつく。
鞄の中を探っていた指にかつん、と、傘の骨が当たる。
そのまま折りたたまれた傘を右手に、階段を一段ずつ足取りは重く、重く。
次の一段が無くなったところで、榛名は俯いていた顔を上げた。
掃除や、部活へ向かう足はたくさん居て、いつもと変わらない景色だ。
だから、榛名もいつもと変わらず、何も躊躇うことなく玄関へと向かうことにした。
けれども。
「顔貸して、って言ったはずだけどな」
それは、やはりいつもと違う一コマだった。
振り返った先には、仏頂面の三浦が居た。