三浦はきっと何かに怯えていて、それを榛名は肌で感じ取っていた。


右手で彼の左腕を掴む。そうして指を滑らせる。


彼の指を手繰り寄せると、榛名は見上げて頷いた。


その指先はやっぱり暖かいけれど、今日はそれ以上に自分の体温が勝っていた。


三浦の瞳はゆらゆらと揺れていた。


だから繋いだ指先に力を込めると、彼は少し惑ってそれからぎゅっと握り返してくる。


そうして意を決したように、三浦は再び口を開いた。



「あのさ、昔、ハルは俺のーー」


「あ、こんなとこに居たのかよ。おい三浦探したぞ、」


二人以外の声がして、榛名は途端に振り返った。


繋いでいた指先は一瞬で離れる。入口に立っていたのは、上野だった。


この状況に違和感を感じ取ったのか、上野はしかめ面を送ってくる。


「もうすぐ最後の委員会始まるぞ。北村さんまで連れ出して」


上野の指摘に、榛名は顔を赤くする。


「俺がハルをどこ連れ出したって、関係あるのかよお前に」


三浦が榛名の前に立つと、上野ははあ?と呆れていた。


腕を組み、教室の戸に体重をかけている。


「あのなあ、俺に負けて悔しいのは分かるけど、良い年して八つ当たりなんかすんなよ」


それから間髪入れずにこう言った。


「あと、千原さんが呼んでたぞーー本腰入れてお前を戻す気だよ、きっと」


『覚悟しとけよ』と上野は口角を上げた。けれどもそれは、三浦を迎え入れる仲間としての確かな微笑みだった。


三浦は息を呑む。


それからふと息を漏らし、彼は言った。


「お前に負けたこと、想像以上に応えたわ」


上野は一瞬目を丸くしたが、すぐに鼻を鳴らした。


「じゃあ勝ってみろよ、戻ってきたら、いつでも相手してやるから」


三浦はその言葉に声を上げて笑った。それから榛名の方を振り向いて言った。


「俺、千原さんのところ行ってくる。委員会終わったら、一緒に帰ろう」


榛名が頷くと、三浦は駆け出した。


その背中は、何かを吹っ切ったように榛名には見えた。