あと半周もすればもう一度、榛名のクラスの応援席の目の前を二人が駆け抜ける。
近づいてくる二人の姿に、そしてその喧騒のなかで、榛名はゆっくり息を吸った。
身体が震えているのが自分でも分かった。
緊張しているのだ、でも、どうして。
三浦がちゃんと走りきれるのか、どちらが勝つのか、不安と高揚感が入り混じっていた。
深呼吸をしたのは、そんな気持ちを落ち着かせるためのものの、はずだった。
横一線で顔を歪ませながら二人が近づくと、リミットが刻一刻と迫っているのを感じた。
それは、もう、無意識のことだった。
「がんばれ!」
榛名はたまらず両手で口許を押さえた。
それはとても自然に声援の中に溶け込んでいた。なんてことない言葉だったけれどーー
三浦の目線がちらりと横に移る。
一瞬だった。それでも確かに、榛名の声は届いていた。
*
カラーコーンを抱えて倉庫の中へと入る。薄暗く、足を動かすと埃っぽい匂いがした。
外から笑い声が流れてくるのに振り返ると、体育祭委員が手を動かし口を動かしている。
その間延びした口調に、体育祭が無事に終了したことへの安堵や疲れも感じた。
倉庫の入り口から外へ出て、近くにいた委員の子達にお疲れさまと一声掛けようと近寄った。
「お疲れ」
それより早く、労いの声が榛名に掛かる。条件反射で振り返ると、榛名は口を開けたまま一瞬で固まった。
三浦の姿があった。捲った袖から伸びる腕を腰に当て、仁王立ちスタイルの割にはすっきりとした顔つきで居る。
榛名ははっと我に帰ると、自分の両手を後方に隠した。
それから目線を下げると、彼の足首にはミサンガがすんなりと馴染んでいた。
三浦は言った。
「ちょっと、いい?」