あと半周もすればもう一度、榛名のクラスの応援席の目の前を二人が駆け抜ける。


近づいてくる二人の姿に、そしてその喧騒のなかで、榛名はゆっくり息を吸った。


身体が震えているのが自分でも分かった。


緊張しているのだ、でも、どうして。


三浦がちゃんと走りきれるのか、どちらが勝つのか、不安と高揚感が入り混じっていた。


深呼吸をしたのは、そんな気持ちを落ち着かせるためのものの、はずだった。


横一線で顔を歪ませながら二人が近づくと、リミットが刻一刻と迫っているのを感じた。


それは、もう、無意識のことだった。



「がんばれ!」


榛名はたまらず両手で口許を押さえた。


それはとても自然に声援の中に溶け込んでいた。なんてことない言葉だったけれどーー


三浦の目線がちらりと横に移る。


一瞬だった。それでも確かに、榛名の声は届いていた。







カラーコーンを抱えて倉庫の中へと入る。薄暗く、足を動かすと埃っぽい匂いがした。


外から笑い声が流れてくるのに振り返ると、体育祭委員が手を動かし口を動かしている。


その間延びした口調に、体育祭が無事に終了したことへの安堵や疲れも感じた。


倉庫の入り口から外へ出て、近くにいた委員の子達にお疲れさまと一声掛けようと近寄った。


「お疲れ」


それより早く、労いの声が榛名に掛かる。条件反射で振り返ると、榛名は口を開けたまま一瞬で固まった。


三浦の姿があった。捲った袖から伸びる腕を腰に当て、仁王立ちスタイルの割にはすっきりとした顔つきで居る。


榛名ははっと我に帰ると、自分の両手を後方に隠した。


それから目線を下げると、彼の足首にはミサンガがすんなりと馴染んでいた。


三浦は言った。


「ちょっと、いい?」