「特別な意味が一ミリも無いって、本当に言い切れるなら、」


三浦の指先が、榛名の手のひらを掠めながらミサンガを摘まむ。


「他の奴にはこういうことしない方がいいよ?」


掠めた部分が少し熱い、それを自覚すれば耳に熱が集まるのも遅くはなかった。


三浦はそのミサンガを数秒見つめると、言うべきかどうか、と思案しているように瞬きをした。


そうして、ぼそりと呟いた。


「あのさ、この際だからやっぱ言う。俺がまた走ろうって思えたのは、北村のお陰だよ」


榛名の顔色を伺うように微かに首を傾けると『見とけよ』と戯けてみせた。


榛名は目を丸くした。それを満足そうに見つめた三浦はくるりと玄関の方へ去っていた。


「じゃあな」


息が詰まりそうで、いつの間にか握り締めていた手のひらには汗が滲んでいた。







我ながら大胆なことをしてしまった、と榛名は思った。


リレーの選手入場のアナウンスが掛かる。それを拍手で迎える周囲に隠れて、榛名は自分の右腕を注視した。


彩花に教わった最初のミサンガは、そのまま部屋の背景にしてしまうのが惜しくなった。


だから結局、現在は榛名の華奢な腕で緩く結ばれている。


先週末に、本当は特別な思いを込めて作ったミサンガ、それは三浦が足首に着けているという。


三浦は人の思いを無下にしないような男だから、そう自分に言い聞かせてはみるもののーー


「ペアルック、」

「へ?榛名、なんか言った?」

「あ、ううん!なんでもない」


榛名は後悔した。何故このミサンガを着けてきてしまったのだろう、と。


それと同時に頬が緩んでしまう自分に、榛名は平手打ちをしてやりたい気分だった。