そして昨日のことだった。
「本当に、深い意味は無いの」
2週間ぶりに帰りしなの三浦を迎えたところ、榛名はそう切り出して、あるものを差し出した。
あまりに唐突なことに三浦は憮然としながらも口を開いた。
「これ?どうした」
「うん。あのね、これはその、」
青と緑と白。三色の糸が編み込まれたそれは、彩花に編み方を教わったミサンガ。
けれどもそれは、今度は新しい糸で、ついでに気持ちも多少込めて、一から作り直したものだった。
榛名はそれを三浦の前に差し出しながら、すうっと息を吸い込んだ。
「三浦くん、選抜リレー出るって言うから。『怖くないって言ったら嘘になる』って言うから。なんならその、近くの神社にお参りしてきたし。だから有り難く貰ってくれたらきっと、」
ちらりと盗み見ると、驚いているような彼と目が合う。
だけどその両目の際がすぐにーー確かに下がった。
「うん」
続きを促すような相槌に、榛名は尻すぼみになりながらも口を動かした。
「躓かずに転ばずに、ちゃんとゴールには、辿り着けるのかな、と思ってーー」
すっきりと言い切らない口調の自分に嫌気が差して、顔を上げることなんてとても出来そうにないと思ったのに。
「それ、本当に深い意味、無いの?」
三浦がそう言うと、榛名は条件反射で顔を上げてしまった。
顔を上げたきり、口をぱくぱくと動かして、目線は落ち着くところがない。
こんなキャラじゃない、しっかりしろと、榛名は自身に喝を入れる。それから力に任せて返事をしようとすると、三浦が噴き出した。
「なんで笑ったの」
「いや、なんか新鮮な顔見れたなあと思って」
そうして肩を揺らして笑うものだから、榛名はつい油断してしまったのだ。