頬や腕にペイントを施し、すっかりお祭り気分漂う応援席で彩花を見つける。
クラス毎にデザインの違ったTシャツの袖を何度か折り、緩くウェーブのかかった髪の毛を高めに纏めていた。
こちらに気付いたところで駆け寄る。すると彩花はまっさらな頬をほころばせながら、開口一番こう言った。
「三浦くんが足首にミサンガ着けてたって、瞬くん驚いてたけど。それって、榛名でしょう」
頬が熱くなるのも何のこと、悪びれもせずに彩花は肘でつついてくる。
2週間、三浦と口をきいていないのは確かだった、昨日までは。
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先週末、とうに衣替えの移行は完了したのでブレザーをクリーニングに出そうとした時のことだ。
ブレザーを掛けていたハンガーから隣に目をやると、コルクボードにはいつも通り最低限の画鋲が留められている。
その画鋲に申し訳程度に引っ掛かっている、トリコロールのミサンガ。
鮮やかな色彩に惹かれて、机の引き出しにしまっているのが勿体無いと思って居場所を考えた節があった。
榛名はそこでふと、かさついた唇を触る。
きっちりと網戸は閉めていたが、そこから乾いた風が、こぼれ落ちた後れ毛をさらっていった。
榛名はその指で、今にも落ちそうなミサンガの輪っかを掬う。そうしてそれをくるくると弄んだ。
部屋の中をしばらく行ったり来たりして、ぴたりと止まる。そこでひとつ決心するとそのミサンガを机の上に置く。
それから財布とブレザーの掛かったハンガーケースを手に、榛名は部屋を出た。