歩道橋の上、痺れを切らした榛名がその背中に話しかけた。


「走ること、怖くないの?」


三浦はひとつ、うーん、と唸る。それから水玉を弾く足元を見つめて呟いた。


「怖くないって言ったら、嘘になるけど、」


いつかのように、三浦は淡々と階段を降りて行く。


榛名は唇を噛んだ。そうして幾らか潤った喉を開いて、ずっと引っ掛かっていたことを尋ねた。


「だって、怪我したんでしょう、」


三浦の足が止まる。


振り返った透明な表情に、榛名は『いつかと同じこと聞いて、ごめんなさい』と付け足した。


今度は決して顔を歪めることなく、三浦は参ったな、と言いたげに笑った。


「あのさ、中学の頃の話なんだけど、」


唐突に始まるエピソードを榛名は聴き漏らさぬよう、すぐに追い付いた。


「結構、陸上で有名な学校に居てさ、それで県の大会に進んで。中2の時に」


歩道へ降りると、雨足の弱くなった空を見上げた。


「第一走者だったんだけど、すげー足が震えてさ。何がなんだか分かんなくなっちゃったんだよな」


左手をポケットに突っ込んで、どこまでも続く曇天の空を見つめていたかと思うと、彼は笑った。自分を嘲るかのように。


「もう脚に力が入んないからさ、勢いだけで身体が前につんのめっちゃって」


ポケットから取り出した左手を立て、傾けながら右方にスライドさせると、がくん、と、その手首が項垂れた。


榛名は息を呑んだ。